人生100年社会デザイン財団運営委員長 井上昌之
このシリーズでは、当財団に参加しているソーシャルイノベーターたちをインタビュー形式で紹介します。第1回はREMEM株式会社です。折しも同社の文書音声化プラットフォームVOXXを採用した「アクセシブルライブラリー」がデジタル庁の2022年度good digital award*で全355社の応募の中で見事グランプリを獲得しました。この機会をとらえて代表取締役社長の森下英昭さんにお話を伺いました。
ーーまずはこの文書音声化プラットフォームのVOXXとはどのようなシステムなのでしょうか?ほかにも音声合成のシステムはあると思いますが、どのような特徴があるのでしょうか?
森下)テキスト情報をクラウド上のVOXXという文書音声化プラットフォームに登録して、音声合成生成技術を使ってそれを音声にしてスマホのブラウザで聞くことができるようにした仕組みです。アプリをダウンロードしてインストールする必要もありません。従来のシステムと違い、システムのサーバーに音声データを保存しておくこと無く、原稿となる文書を読み聴く際にリアルタイムで音声化する特長があります。そのため図書館の書籍のような大量の文書にも対応できますし、音声データも保存していないので、安価にご利用頂けます。また、QRコードから簡単にアクセスできて、目次・ナビゲーション機能や、音声の種類や速度の選択ができ、原稿の更新もリアルタイムで反映されるというメリットも大きな特長です。
ーーということは、いろいろな用途がありそうで興味津々ですが、たとえばどんな使い道があるのでしょうか?
森下)世の中のさまざまな文書を読み込んで音声化します。たとえば、案内・説明文、取り扱い説明書、規約・契約書などのなかなか目で追うのが大変な文書。この用途では、今年(2022年)4月に、我々と同じく人生100年社会デザイン財団のメンバーの三井住友信託銀行さんが主に高齢者とそのご家族向けに提供されている認知症などの情報を扱ったお客様向けの冊子に採用頂きました。冊子の各ページにVOXXのQRコードが記載されており、それをスマホで読み込むと各ページの説明が音声で聴くことができるというシンプルなものですが、耳から情報が入ってくるので疲れない。それから情報バリアフリー化の用途です。文字情報へのアクセスが難しい視覚障害者や識字障害の方々に音声で情報を届けることが非常に簡単に行えます。その方向でVOXXシステムが使われている一つの大きな事例が、書籍を音声化して読み上げてくれる視覚障害者向け電子図書館、「アクセシブルライブラリー」(視覚障害者専用電子書籍音声自動読み上げサービス)で、このたび光栄にもデジタル庁のgood digital awardのグランプリを受賞しました**。
ーー今回の受賞のお知らせをいただいて、デジタル庁のgood digital awardのホームページを見てみたのですが、審査員も伊藤穣一さん、村井純さん、落合陽一さん、米良はるかさん、夏野剛さん。。。錚々たる方々で、とにかくすごい賞なのだと思いました。さて、どのような賞なのでしょうか?
森下)「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」に貢献している、または今後貢献し得る個人や企業・団体を表彰するもので、スターアップ部門・アート部門・エンターテインメント部門・教育部門・D&I部門・防災/インフラ部門・モビリティ部門・健康/医療/介護部門 ・農業/水産/林業/食関連部門の9部門に355の企業・団体・個人がエントリーして、我々はエンターテインメント部門に応募して、その後全部門の優秀賞、さらに最優秀賞に選ばれ、その中からグランプリに選ばれました。「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」は我々がまさに目指すところで、言い換えればインクルーシブな環境への挑戦を評価いただけたものと理解しています。
ーーインクルーシブはまさに当財団の第3期目(2022年10月から)の大きなテーマでもあり、財団としてもとても興味があります。実際にこの10月からトヨタ財団から助成金をいただき、「インクルーシブ・コミュニティ」の共同研究をすることになりました。インクルーシブはやはり重要なテーマと言えますね。
森下)本年5月に「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が国会で可決承認され、6月に施行されました。障害者による情報の取得利用・意思疎通に係る施策の推進を後押しするもので、障害者が地域に関わらず同一の情報を同じ時点で取得することを高度情報通信ネットワークの利用・情報通信技術の活用を通じて可能にすることを旨として、国や自治体はその施策を実施する責務があるとしています。自治体やコミュニティで必要な様々文書をVOXXで音声化することはこの新法へ対応することになります。是非採用を検討頂きたいですし、今回グランプリ受賞のアクセシブルライブラリーもこういった時代の要請に応じて、どんどん普及していくものと期待しています。
ーー人生100年社会は、さまざまなハンデや背景を持った多様な人々が生きるを共にする社会ですから、インクルーシブという意味では、障害者だけが対象ではないですね。たとえば、私なんかも寄る年波に勝てなくて、老眼は進むし、細かい字を読むのは億劫になるし、長いページを一気に読むのは辛くなって、またネットから情報を取れと言われても画面をスクロールしていると、もういいやと思ってしまいます。視覚から情報が取りにくくなっているのが自分でもよく分かります。助けてくださ~い、という感じです。
森下)私もそんな高齢者の一人ですが、視力もだんだん弱くなってきたり、細かな字が見えにくくなってきたり、また長い時間文字を読む集中力が衰えてきたりするので聴覚からの音声情報は優しいと思います。また、外国人の方々。多くの外国人が日本にやってきてますます貴重な戦力になっていく。彼らは我々が言っていることは分かるし、会話はできるけれど、日本語を読むのはなかなか難しいという方も多いと思います。そんな皆さんにも音声のサポートがお役に立ちます。とくに、緊急時のアラートやハザードマップのような命に関わる情報も確実に届くようになりますし、また今コミュニティとの軋轢が問題になっていますが、コミュニティに溶け込んで生活していく上で共通の情報にアクセスすることが共通の認識を持つベースとなり現実的に大事なことだと思います。
ーー財団では年10回ほど、ゲストを招いて「人生100年社会デザイン・フォーラム」を開催しています。コロナ対策もあり、基本的には撮影して、後日アーカイブ配信というスタイルです。撮影時にはリアルで立ち会ってお話を聞いて、それからアーカイブ配信で2回、3回と繰り返して視聴するのですが、リアルの時に気づかなかったことが、1回目でハッと思う。またもう1回視聴すると、より深く「こういうことか」と頭に入ってくる。視覚+聴覚両方からの情報が、より頭に残るということを実感しています。そして、今やスマホがあれば電車の中でイヤホンを使ってそれが実践できる。いい教材にもなるなと思います。
森下)VOXXのプレイヤーは音声の再生と同時に原稿の文をテキストで表示していて、それらはシンクロしていて読んでいる部分がうっすらとハイライトされています。この視覚と聴覚の2系統の感覚器で脳に情報を届けるとそれぞれの情報取得が補完して、非常に効率よく読み進めることができます。これを私は勝手に「ハイブリッド・リーディング」と呼んでいるのですが、記憶への定着が良くなるという研究結果もあると聞いています。また、人によって聴きやすい声や原稿や作品の内容に合った好みの声に変えることで、文書を読む効率も上がりますし、モチベーションも上がりますよね。
ーーそれはたとえば、歳が分かってしまうのですが、吉永小百合さんの声で語りかけてくれるということでしょうか? 彼女の本の読み聞かせなどを聞いていると、自然と浸透圧で内容が身体に溶け込んでくるような気がします。
森下)それは技術的にはまったく問題ありません。音声データを事前に用意させていただけるかどうかが課題ではありますし、どんな文書を読ませても良いという訳にはいかないでしょうが。。。
ーー私は美術館での展覧会を企画する仕事をしているのですが、たとえばよくある音声ガイドもスマホでテキストを見ながら音声も聞くということも可能でしょうか?
森下)音声ガイドの原稿をVOXXに登録してそれを再生して音声ガイドとして仕込むことはもちろんできますし、あるいは美術館で展示している解説プレートの横にQRコードをつけて、読み取れば音声でプレートに書いてある以上の詳細な解説を聞くことができるとか、さらには公式ガイドブックやパンフレットに音声ガイドを加えるなどいろいろと活用できます。
夢はいろいろと広がり、話は尽きないのですが、今回のインタビューはこのあたりで。森下さんはITやゲームの領域でいろいろとキャリアを積まれ、私が最初にお目にかかったのは6~7年前だったと思います。当時はイスラエルのIT企業の日本法人の社長をされていましたが、VOXXで社会に貢献する事業をしたいと、シニアになって起業をされました。「起業をしたいけれど・・」と思っているシニアも多いはず。そういう意味でもとても勇気づけられますし、良いお手本でもあると思っています。
*https://digital-days.digital.go.jp/gda/
https://digital-days.digital.go.jp/gda/grandprix/
**https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000109250.html
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