※この記事は、第12回人生100年社会デザインフォーラム(ゲスト 小田切徳美氏(明治大学)、財団代表理事 牧野篤氏との対談)から抜粋したものです。
牧野先生 新しい暮らしのモノサシとして、暮らしの仕組み、金・モノの循環、仕事をつくっていくことが大事で、集落が消えてしまう大きな原因として「誇りの過疎」、または「諦め」があると(小田切先生は)おっしゃいました。
小田切先生は、そういった農村の動きを見てこられたと思うのですが、私がかかわっている「人」もそうだと思います。
人も、「自分はもういる意味がない」と思い始め、ちょっとへこんできて、あるところを超えてしまって、臨界点を越えて諦めてしまうと、ひきこもってしまったり、鬱になってしまったりする。
その少し前の分岐点というところで、誰かが寄り添っていて、しばらくグズグズはしますが、小田切先生はこれを「寄り添い方の支援」とおっしゃっていましたが、そこをすぎると逆臨界点がやってきて自立をし始める、人も同じふうな感じもするし、企業の組織のあり方といったものも、そういうところがあるのではないかなと思います。
先生方が全国の過疎地を歩き、農山村の中で発見されたことというのは、実は人のあり方そのものでもあるかな思います。
小田切先生 最近、我々はプロセス重視の地域づくり、あるいはプロセス重視の農山村の再生という言い方をしています。特に重要なのがプロセスです。
プロセスにはいろいろなプロセスがありますが、基本的に集落が再生する場合、集落だけではなく地域が再生する場合には、「足し算型の支援」、「足し算型の活動」というのがあります。諦めつつある人々が小さな成功体験などを積み重ねながら、みんなで共通して議論するような場をつくっていく。ある段階からぴょんと跳ね上げるような、「掛け算型」の活動に展開していきますが、この順番を間違えてはいけないのです。いきなり掛け算をすると、伸びるものも伸びなくなってしまうという話ですね。
こういった議論・理論が出てきたのは、震災復興から、特に新潟中越地震の復興過程で、いわゆる足し算のプロセスというのが意外と時間がかかり、過去に2年や3年どころではなくかかって、その間にやることといったら、小さな成功体験であり、そういった過程の中で必要なのはむしろ「プロフェッショナルではない人材」です。
特にアマチュア、学生などは時間があるし人の話をゆっくり聞くような立場にあります。
聞き書きとか、アンケートとか、ワークショップとかそういうことを積み重ねて、時間をかけながら足し算をしていくことが重要だという議論が出てきました。
これは我々にとっては衝撃的でした。
今まではいかに結果を出すのか、それをいかに短期間で出すのかということに集中していた側面があったが、実はそうではなくて、アマチュアが時間をかけるものと効率的にやることの組み合わせが重要だったのです。
こういった議論が実は無かったのです。
その意味では、プロセス論というのが最近の我々の一つの重要な考え方になっています。
プロセスデザインでもいいと思いますが、いかにそれをデザインするのかという発想を行政も持つべきだと主張しております。
牧野先生 私たちも今、その話をまちづくりや、社会教育でよくやるのですが、昔は例えば調査対象などにフィールドワーカーとして入るが、入る前に予習をしていけと言われました。
事前に調べていって、相手が言うことに対して、的確な答えができるようにするとか、的確な質問ができるようにしなさいと言われていました。
私は学生時代・院生時代からずっとそうやって関わってきたのですが、やっていく過程でそうではないのではないかと思い始めたのです。
今、私たちが地方に行くときには、学生たちにはほとんど何も調べずに行かせ、全く事前情報ゼロの素人という状態で行き、話を聞き続ける、質問するのではなくて何も知らないから教えてくださいという感じでいく中で、どんどんこちらが受けとめて「ああそうですか。わかりました。私、全然知らなかったので・・・」というような話を続けていくうちに、ご自身たちがどんどん話をされていく中で、ご自分の気持ちに、自分の言葉に気づき始めると思います。
これを私たちの言葉では、カウンセリングと言ったりするのですけど、何かを提案したり、刺激を与えて何かをしてもらうのではなく、こちらが聞き役に徹する中で、巻き込まれていって、相手がどんどんある意味で「教えてあげようか」いう感じになっていくと、ちょっとずつ変わっていかれるのだなということがよくわかります。
そのような形がこれから求められてきて、それが先生もおっしゃった「寄り添う」「足し算」ということだと思います。
自分の気持ちや、自分の言っていることに、「諦めた」とか、「もうだめだ」と言いながらそう言っている自分の言葉を聞き続けていくうちに、実はどこかに何とかしたいと思っていた気持ちがはっきりしてくると思います。
僕はそういうことの方が大事ではないかなと思うのですね。
今までは調査っていうのは、調査し、私たちが理解をして発見をして、例えばだめになってしまった理由を探して、その理由をこちらはっきりと書けば解決するだろうと思われていたと思うのですけども、そうじゃないのではないかと思うのです。
小田切先生 まったくそのとおりだと思います。その意味で、足し算と掛け算ということと同時に、その中に入っていく人々は、目指してはいけない、過ごすべきだ、ということです。
最近ではまた、課題解決ではなくて主体形成であり、最初に課題解決しよう、あるいは課題解決しようと決めて話し始めてしまうと、相手もこっちも疲れてしまい、得られるものは非常に少ないのだと思うのです。
むしろ話を聞いて、お互いが成長するということ自体を目標にするべきだと思うのです。
これが根ざすのではなく過ごす、あるいは課題解決ではなく主体形成だということ。これもやはりプロセスデザインだと思いますね。
牧野先生 そういう意味では、何か目的を先に立ててバックキャストで決めていったり、達成するために何かするということではなく、むしろフォワードキャスティング(英語にあるかどうかわからないですが)。フォアキャスティングでもなく、ちょっとずつ良くなっていくことを実感しながら、次へいこうとするような関わりを持つということですね。そんなことがこれから大事なのかなと思います。
当事者はその方々ですし、それをやっていく私たち自身も巻き込まれていきながら、よそ者としての当事者性が出てきます。
そういう関係の中で私たちが入れば関係はちょっと組み変わっていますから、その組み変わった関係の中で、現地にいらっしゃる方々が新しい当事者性を獲得していく、そういうところに、私たちが少しかかわりを持たせてもらうというような形での関わりのあり方ではないかなと思っています。
※こちらのyou tubeより全編見ることができます:https://youtu.be/1O-XXKCbDGo
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