※ この記事は、第4回人生100年社会デザインフォーラム(城西大学学長 藤野陽三氏(当財団顧問)と岐阜大学名誉教授 六郷恵哲氏、財団代表理事 牧野篤氏との座談会)から抜粋したものです。
牧野氏)藤野先生は土木インフラというのはつながりであると仰っていましたが、私の専門分野である教育や、この財団でも重要となる「次の世代に社会をつなげていくこと」と関連することだと思います。そして、先生がおっしゃった「繋がり」というのは横の展開と同時に、歴史的につなげていくということも含めていたかと思いますが、土木インフラの繫がりについて、もう少しご紹介頂ければと思います。
藤野氏)私が気になっているのは、今は土木インフラを作ったことがない人が維持管理やメンテナンスをしなければならない時代に入ってくるので、技術の継承はこれから大きな問題ではないかと思います。
特に地方は若い人がそんなに多くなく、どうやって土木インフラを守っていくのか。やはり土木インフラに関わる仕事を「生きがいになるような仕事の仕方」として作らないと、みんながやってくれないわけです。「誇りのある、そしてみんなのためになる」という充実感のある仕事をできる体系をどうしていくかというのは、六郷先生も地方で色々とご苦労されているかと思います。
土木インフラに対する市民と専門家の関わり方について
牧野氏)今先生がおっしゃった「誇りがある」とか「次の世代へ」というときに、専門家として活躍されるということと共に、市民と一緒になってやるということはこれから大事になるのではないかと思いますが、私たちの様な非専門家の素人が関わる場合、どのような育成の仕方や伝え方があるのでしょうか。
藤野氏)そうですね、例えば橋の点検は専門家が見なければいけませんが、やはり(橋が)変わってくることは市民の方も見ているわけです。ですから、何か異常があれば教えていただいて、専門家が見に行く。
市民の方に最後まで任せるのは責任の問題もあることから点検はできないと思いますが、土木インフラが今どういう状態にあるのかに関しては、市民の方は毎日見ているわけです。先ほど(講演で)橋の異常について、先ず市民からの電話があったという例を取り上げましたが、そのような市民からのwarningがある場合は多いです。このような情報がしっかりと伝わり、すぐに対応すれば事故は起きない。
みんなで土木インフラを守り、その下支えとして専門家がいるというような仕組みが望ましいでしょう。
牧野氏)六郷先生は岐阜で活動されている中で、専門家と一般市民の方々を結びつけるようなネットワークを形成されていらっしゃるのでしょうか。
六郷氏)そうですね、岐阜大学の場合は10年前くらい前からインフラマネジメント技術研究センターというものを作っておりまして、そこで地域住民の方と一緒の活動もしております。また、インフラメンテナンス技術者を養成する、ME養成講座(※1)をやっていまして、これが非常に特徴のある内容になっています。元々インフラメンテナンスが重要と思っている意識の高い方、かつ出身母体は行政やコンサル、建設会社など立場、経験、年齢が違う人が集まり、そこで1か月間缶詰めになり一緒に勉強するというのは、非常に影響が大きいと考えています。その方々のおかげで藤野先生が先ほど講演で仰っていた、SIPインフラ(※2)の地域実装支援の中で助けていただいたと思います。
牧野氏)私たちの社会教育や生涯学習分野でも、例えば防災訓練等を町内会が実行するなどいろいろな取り組みが行われています。今は激甚災害が増えていますので、関連省庁もやはり日常的な防災訓練が大事だと言うのですが、防災訓練をやっていても2、3回皆さん来られると飽きてしまい、疲れてしまい、興味を失うことになり、なかなかうまくいかない例が多々あります。先生方が取り組んでいる活動というのは、例えば特にそういうものに関心がある方々が集まっているので、繋がっていくということであるのか、それとも市民も専門家の方々と交流していく中で、それぞれがそれぞれの社会的な役割を担っているといった自覚が出てきて次に展開していくのか、このあたりのお考えを聞かせてください。
六郷氏)地域の方々との取り組みはしているものの、まだそれほど大きく成果が出るものではありません。それに対して、土木の分野の技術者の方で、思いが強い人が集まって、その人たちと一緒に活動をしていくME養成講座は非常に大きい、やはり専門性がある程度あった方が効果も大きいと思います。
インフラと地域・市民を「つなげる」、関係性を作ること
牧野氏)では、そういう方々と一般市民の方々が、日常的な生活の中で(インフラに対して)目にしているとか、点検する、そして異変などに気づいて通報されるとか、そういうところまで今後展開していく関係や、つながりみたいなものは、恐らくこれから必要なのではないかと思うのですが、その中で何かお考えや事例がありましたらご紹介いただきたいです。
藤野氏)例えば日本大学の岩城先生の活動では、地域の方、学生さんを巻き込んで簡単な橋の点検表を作り、地域の人がいわゆる一次点検をやっていく仕組みを作って、なかなか盛り上がっているようです。ただ、やっぱりそこにはリーダーがいるんです。岐阜では六郷先生がいるように、やはり誰かがコアになって動いていく、引っ張っていくと世の中が動きます。ですので、みんなが「誰かがやるよね」って思っている限りは成立しないんです。
牧野氏)そうですね、みんなが「自分がやろう」と思えるような関係をつくっていくことが大事かなと思います。
※1 ME養成講座:メンテナンスエキスパート(Maintenance Expert)養成講座。インフラ施設に対して適切な診断と処置をするための養成講座。4週間の短期集中講座として開講しているすべての講義を受講し、認定試験に合格したインフラ施設維持管理の高度専門技術者がMEとなる。(参考HP:http://ciam.xsrv.jp/me01/)
※2 SIPインフラ:SIPインフラ維持管理・更新・マネジメント技術。藤野陽三教授がプログラムディレクターをつとめた。研究開発項目はそれぞれ(1)点検・モニタリング・診断技術、(2)構造材料・劣化機構・補修・補強技術、(3)情報・通信技術、(4)ロボット技術、(5)アセットマネジメント技術であり、土木インフラの安全・安心をテクノロジーで実現する研究開発が行われた。(参考HP:https://www.jst.go.jp/sip/k07.html)